あーめんどくさい。髪の毛切りに行くのめんどくさい。
切っても切ってもすぐ伸びるんです、髪の毛。
伸びなきゃいいのに。
なんか、「伸びる」以外の、もっとうまい方法で代謝してくれ。
ハゲたくはない。ハゲるのはイヤ。
せめて、もっと控えめに伸びてくれ。
1年に1cmとか。
それくらいなら許す。
1ヶ月で1cmは早すぎだろうがよ。
なんでこんなに髪の毛のびるのがイヤかというと、床屋が苦手なんです。
苦手どころじゃあありません。超、ニガテです。
知ってます?床屋。髪を切ってくれるところ。
美容室だとか理容室だとか。
ぼかぁ、床屋と呼んでいます。
なんか、髪切りながらいろいろ話しかけてくるじゃないですか、店員さん。
コミュ症気味の人間にとっては、とてもツライ時間なんです。
親しくない人と、おはなしする。
ぎこちない作り笑顔をうかべ、相槌をうつのが精一杯。
「えぇ」
「あはは」
「そうなんですか」
床屋に来るとぼくは、この3つの文字列だけを繰り出すbotと化します。
当然会話は途切れ、あたりには気まずい空気がただよう。
そんなことものともせずに、次から次へと話しかけてくるんです、店員さん。
「えぇ」
「あはは」
「そうなんですか」
つぶやきながら、そっと目を閉じて、寝ますよー話しかけるなよーオーラを出します。
ほらほら、目を閉じてますよー、口も半開きでアホ丸出しですよー。
よく見たら、鼻からフーセン出てない?頭のうえにzzzって出てない?
…。
そんなオーラものともせずに、次から次へと話しかけてくるんです、店員さん。
手ごわい。
◆
◆
ぼく、サイドをバリカンで刈り上げているんですけど、刈り上げている途中、つまりバリカンが耳元でうなっているのに話しかけてくるんです、店員さん。
バリカンは「ヴィィィィィィィイイイイイィィィィィン!!!」つって大音量でがんばっています、耳からゼロ距離で。
ぼくの耳から入ってくる音は、98%がバリカンです。
そんなこと知ったことねぇとばかりに、次から次へと話しかけてくるんです、店員さん。
2%が、98%に果敢に挑みます。
聞こえるわけがありません。
もはやアホ。
「あはは」
「あはは」
「あはは」
としか受け答えできません。何言ってるのかまったくわからないもんで。
かろうじて、「なんかしゃべってんな〜」くらいはわかります。
ウカツに「えぇ」とかいっちゃって、もし店員さんが発していた言葉が「耳切り落としていいですか」とかだったら大変です。
耳を切り落とされてしまいますからね。
そうなったら、バリカンの音さえも聞こえなくなってしまいます。
煩わしいバリカンの音も、2度と聞けないとなると、センチメンタルな気分になることでしょう。
あぁ、バリカンの音、また聞きたかったなぁ。。。
だから、バリカン中に話しかけられても、「あはは」しかいえないのです。
お茶を濁すしかないのです。
コミュ症に”聞き返す”なんて選択肢はございません。
◆
◆
◆
ある時、新しい髪型に挑戦したくなったんですね。
短くておしゃれな髪型に。
そう、“おしゃれ坊主”とやらに。
そう、そんなこと伝えられるはずがありません。
そう、ぼくはコミュ症なのです。イェイ。
「いつも通り、、あっ、いつもより短めで。」
かろうじて、こう伝えることができました。
そして、
「えぇ」
「あはは」
「そうですね」
◆
◆
10時間にも感じられた1時間を耐えしのび、目の前の鏡にうつったのは…。
いつもと変わらぬ長さの髪の毛をたずさえた自分の姿でした。
〜完〜